山羊を眺める

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もうけっこう前になりますが、
ひとりで南の島に行ってきました。といっても国内です。
日本で一番南に位置する島に、旅してきました。
どこか、果てまで行きたかったんです。
でも世界は丸いし、果てを目指しても同じ場所に戻ってきちゃうから、
どこかで区切るしかない。
とりあえず地図上で区切られる境界線まで、果てを目指して。

船を降りた瞬間、生暖かい風に巻き上げられるように、
獣の匂いがただよってきました。
だから最初から、そんな予感はしていたのですが。

その島は、自転車で大体2時間くらいあれば一周できる大きさで、
不精で観光とか面倒な私は一周しなかったんですけど、
道に迷う心配がないのを幸い、とりあえず日中は自転車でひたすらデタラメに走り回っていました。
その間、たくさんの山羊に会いました。
人間にもたまに会うんですけど、はるかに上回る数の山羊に出会いました。

島の人に訊いてみると、野生の山羊はいないらしいんですけど、
ほとんどの山羊はひろーい野原に放し飼いにされていて、
道を曲がるといきなり顔を出すから轢きそうになったり、
とにかくたいていの山羊は自由に歩き回っているんですけれど。
時々、つながれている山羊もいました。
そして不思議なことには、つながれている山羊はたいてい、ものっすごく短い紐で杭につながれていました。
大体、1〜3mくらいの紐。
野に放たれる山羊とつながれる山羊を区別する基準が何なのか、ちっとも分かりませんでした。
その山羊たちは、なんだかあまり理由もなく、たまたま紐につながれちゃったように見えました。
小さな空き地(車だったら3台停められるくらい)や、道端の窪みなんかに、
つながれた山羊が立っているんです。
半径1〜3mの円の中で、一日中ウロウロしたり、草を食んだり、
少しだけ高いところに登って木を眺めたりしています。
それで、全然人馴れしてなくて、近づくとすごく急いで逃げ回るんです。
半径1〜3mの円の中を。
追いかけると、さらに焦って、尻尾なんか巻いてしんから恐ろしそうに逃げるんです。
でも、紐がピンと張るところは一度も見なかった。
少しだけ離れたところに移動して、じっと後ろを向いている。
半径1〜3mの円の中で、彼(女)らの行動は充足しているんです。

その、山羊を見ていたら、なんだかとても侘しいような気分になって、
愛しくなって、その刹那、恐ろしいことに気づいて戦慄しました。
自分と山羊が「=」でつながりました。
ああなんて狭いところで走り回っているんだろうって。
そしてその狭さに気づかないでいる。
その紐を食いちぎって、この空き地から出て行きたいって、そんな発想さえなくて。
紐をめいっぱい引っ張って、その不自由さに気づくことさえなくて。

あとね、近づいても、後ずさりもできずに、おびえたように顔を背けるだけの山羊もいました。
逃げないのか?逃げないのか。
近づきたい気持ち半分、逃げて欲しい気持ち半分、
私もどうしてよいか分からなくて、ただ突っ立っていました。

それで、それから毎朝毎昼毎夕、山羊を眺めに行きました。
何も反省も、自戒も、否定も肯定もしていません。
ただ山羊を眺めていました。
南の強い太陽に曝されて、あるいは雨交じりの冷たい潮風に吹かれて。

動物は、本当に面白いです。

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