2005年11月アーカイブ


今日は愛読書をひとつ紹介します。
『メロップスのわくわく大冒険1・2』という本です。

メロップス一家は豚の家族。
頼りがいがあって物知り、立派なパパ・メロップス。
顔つきはほぼ同じ豚だけどそれぞれに個性豊かな4人(匹)の息子たち、カシミール、フェリックス、イジドール、フェルディナンド。
やさしくて料理が上手なママ。
「イヌ」としか呼ばれていない飼い犬。

物語はたいてい、息子たちの素朴な疑問から始まります。
パパがゴルフをしていて、ボールが地面の穴に落ちてしまったとき。
イジドールが「地面の下はどうなっているの?」と訊ねた言葉に、
いきなり「地底たんけんに行こう」と切り返すパパ。
その決断力と行動力たるや、堅気の人間とは思えません。
それもそのはず、メロップスさんはフランス海軍大佐の末裔らしいです。豚ですけどね。

またあるときは、一家そろってのピクニックの一場面。
カシミールが「近くに小川があるからおいしい水が飲めるよ」と提案したところ、
パパは一口飲んでみて、「ペッ!石油みたいな味がする。ということはこの近くに石油があるかも」
その鶴の一声で、メロップス一家の石油を掘り当てる冒険が始まってしまいます。
メロップスさんがすごいのは本当に石油があるか確かめるために、
地面から出てきた化石や貝殻を分析して、石油があるかどうかを科学的に分析しちゃうところ。
そして、石油を掘るための機械を自ら設計し、息子たちに手伝わせて作ってしまうところ。
この豚は、いやパパは、飛行機など、たいていのものは自分で設計して作ってしまいます。

収入源は謎だけど、どうやらすごいマルチな才能と財力を持ったパパは息子たちとイヌを率いて、
海底に沈んだ船の宝物探し、密輸の現場を押さえてギャングを一網打尽、などなど
間一髪の危険にいつも身をさらしながら、知恵とチームワークで数々の難関を切り抜け、
すばらしい大冒険を次々と敢行していくのでした。

そして、そんな泥臭い大冒険を終えて我が家に戻ってくる男たちを迎えるのは、
毎度ママのご馳走とお得意のクリームケーキ。
家族勢ぞろいの食卓でデザートのクリームケーキを食べて、漸く彼らの冒険が幕を閉じるのです。
子供の頃、私はこのクリームケーキが本当に美味しそうで、食べてみたくて仕方ありませんでした。

先日この本を読み返してみて、やっぱり「美味しそうだな」と思ったのですが、
とびきり甘いはずのそのケーキに、正直苦々しい疑問を感じざるを得ませんでした(なんだそりゃ)。
「あれ?この話の中で、ママってクリームケーキ以外何もしてなくない?」

それは例えば、こんな風に言い換えられると思います。
「この物語において、ママの存在価値≒クリームケーキだけなのか?」
大冒険の〆はやっぱりコレだよね、とでも言うような、お約束の結末。
そして満足げなママ。
大冒険でぼろぼろになった彼らが家に帰ったとき、
このクリームケーキが無かったらどれだけがっかりすることか!とでも言いたげに。
「あんた、料理はしときなさい。男は最後は料理で家に帰ってくるのよ」とでも説教したげに。
男たちがクリームケーキを食べるときだけはママの天下。
というか、この物語自体が、ママのクリームケーキではじめて完結するのです。

外で働き、疲れ果てた男たちを癒すクリームケーキ。
平穏の象徴のようなクリームケーキ。
家族、あるいは家庭の権化のようなクリームケーキ。
真っ白で、甘くて、だけど食事の後のおまけでしかないクリームケーキ。
男たちに「帰るところ」を教え、いつだって必ず呼び戻す魔力を持ったクリームケーキ。

私はママに訊ねてみたい。
「ねえママ、みんなが冒険に出かけてる間、何してんの?」

ママが、本当に「よい」母、「よい」妻、「よい」主婦であるならば、
やっぱりクリームケーキを作っているんだろうと思います。
あるいはクリームケーキに準ずる、「家庭らしさ」を。
安心できる、帰ってこれる、絶対帰ってこなくてはならない、家庭らしさを。

俗っぽい意地悪を言ってみるならば、実は肉屋のピエールと浮気してるかもしれないし、
在宅ワークでお小遣い稼いでるかもしれない。
その真っ白いクリームケーキは本当に真っ白なのか?
ちょっとは味の加減が変わったりしてないか?
ぶっちゃけ、面倒くさいなとか思ってないか?

「ママ≒クリームケーキ≒帰る場所としての家庭」という仮の前提はここでは深く追求しません。
それについてはまた別の機会に考えなくちゃいけないけれど、
とりあえずママに言いたいことはこれだけ。
私は、やっぱりそのクリームケーキが美味しそうだと思うし、真っ白に見える。
もしもそのクリームケーキが真っ白だとしたら、
ママ、あなたのクリームケーキはたぶん「尊い」って言うんだろう。
善し悪しはともかくとして、ママ、
いつでも同じように真っ白で甘いクリームケーキを作り続けるあなたの役目は、
「美しい」と呼ばれてもいいんじゃない。
たとえそれが、生涯あなたを家庭に縛りつけるとしても。
クリームケーキのために、あなたが外の世界に飛び立てないのだとしても。
クリームケーキのように、あなたの家族があなたの人生を食い尽くすのだとしても。
それについて馬鹿とか言ったり非難したりする人もいるかもしれないが、
だけどその尊さには、誰も触れない。

子供向けの本としては、少し絵が素っ気ないけれど、
楽しい本なので皆さんにオススメしたいです。

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