人魚姫/シンデレラ

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昔から、シンデレラよりも人魚姫の方が好きでした。

人間の足を得るかわりに声を失った人魚姫。
目の前で好きな人が別の女と結婚するのを見ながら何も言えず、ベッドの中の彼を刺し殺せばもう一度海に帰れることを知りながら、愛する男の初夜の海に泡と消えていった悲しい女の子。

でも最近、人魚姫は、海の世界から見たシンデレラ物語なのかもしれないと思うようになった。
人魚のくせにグロテスクな二本足に憧れた人魚姫と、ガラスの靴を落として片足ひきずりながら城を逃げ出すシンデレラは、鏡に映った姿みたいにそっくりで、何から何まで逆さまだ。

この女の子たちに共通しているのは、
自分の暮らしていた世界を飛び出して、どこか別の場所へと越境しようとしたこと。
そして、実際に越境してみちゃったこと。ここではないどこか。
世界の反対側。地面の裏側。宇宙の外側。「彼岸」だ。
そして、いったん飛び出したら、もう後には戻れない。
人魚が脚を得る。
ということはつまり、人魚が人間になる。
ということはつまり、人魚が人魚でなくなるということだ。
それは、人間が人間でなくなることと等しい。
それは、人間が死んだら生き返れないことと等しいと思う。
たとえ魔法で人間が生き返ったとしても、一度死んだ人間が、同じように生きられるだろうか。

本当は、彼女たちが手に入れたかったのは、王子さまなんかじゃないという気がして仕方がない。
人魚姫が海に帰るために王子を殺せなかったのは、王子を愛していたからじゃなく、もう人魚に戻れなかったからだと思うのだ。
そして、靴を落とした(拾われた)シンデレラは、王子さまと結婚するしかなかったんだと思う。
身分の違う人間同士の結婚が許されていない時代には、シンデレラと王子の結婚なんて、人間と動物が結婚するくらい、「あり得ない」(あってはならない)ことだったかもしれない。
実際、シンデレラの類話には、動物や魚と結ばれる女の子の話もあるようです。
「あっち側」に行っちゃった女の子が、もう戻れないお話なんだと思う。


ちなみに今日、稽古場で役者さんたちに
「シンデレラにとって『舞踏会へ行って王子さまと結婚する』ということと同じくらい、
現代の女の子が実現不可能だけど憧れる対象って、何だと思う?」と訊いたら、
「ビヨンセ(になる)」という意見がありました。
たしかに、ビヨンセになったら、もう戻れないかもね・・・

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